2019-09-27 Fri
3月19日に出版した合同句集『海へ』には、36名が20句ずつ寄せていますので、リレー形式で仲間の1句を紹介しています。
今回は津野利行さんの句を田中優美子さんが鑑賞しました。
人の目を避けて西日を避けてキス 利行
刺激的で印象的な一句だ。
この句が、一読して目を離せない作品に仕上がっているのには、次の3つの要素が絡んでいるからではないかと私なりに解釈した。
1つは、言うまでもなく描かれている光景の鮮烈さである。
まるで映画のワンシーンのような、読んでいるこちらが照れ臭くなってしまうような場面。
焼けるような西日も、その場にいるようなリアルな熱感を持って迫ってくる。
2つ目は、表現の妙。
「避けて」の繰り返しにより、逆にスポットは二人だけに絞られ、風景の中から浮き上がって見えるような印象を受ける。
また、破調の響きによって、衝動に近い感情の奔流と、照りつける西日の熱と光が読者の心に流れ込んでくるのである。
そして3つ目は、作者の視点を意識することによる面白さである。
句の中の二人は、「避けて」とは言いながら、人の目も、焼けつく西日も、決して避けきれていないことは分かっている。
それが分かっていても、自らの感情に任せることが今は大事なのだ。
そんな衝動や情熱と、目撃者である作者のどこか冷静な目。そこに可笑しみがある。
だが、さらに、こんな句が詠めるのは、鋭い洞察力を持つ作者の内にも、情熱的な一面が潜んでいるからかも、とまで考えるのは邪推だろうか。
いずれにしても、一度目にすれば忘れられない、インパクトを持った一句である。(田中優美子)
次回は、永岡ひよりさんの句を津野利行さんが鑑賞します。
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