2017-02-27 Mon
今回は、青木あき子さんが鑑賞を書いてくださいました。見返り坂見送り坂春遠からじ 泉
東大前にある本郷通りは緩やかな坂になっている。
六百年前、人が江戸から追放された場所で、親類縁者が追放される人を見送り、追放される人は送る人々を振り返り見たところから、見送り坂・見返り坂と言われたそう。
見送るもの、見送られるもの、様々な人生が行き交ったことだろう。作者はその場所に立っている。追放される人たちは再び会うことはないだろうが、それでも季節は巡って春がやってこようとしている。
作者は春を感じる坂に立ち、遠い昔の人々のせつない気持ちを思いやっている。
鬼ごつこマフラーかなぐり捨てし子よ 麗加
寒い冬でも外で元気に走り回る子どもが目に見えるようだ。声も聞こえてくる。
頬を紅く染め上げ、鬼ごっこをはじめてから間もなく、熱くなってマフラーをえいっとばかりに潔く取り去った瞬間を捉えている。
作者はその潔さ、迷いのなさ、子どもにみなぎる生命力を受け止め、見守っている。
そしてその子のこれからの健やかな成長を祈り、期待している。勢いがある一句。
めがね押し上ぐる指先春浅き 林檎
めがねを押し上げる指先・・・眼鏡のふちをつまんで押し上げたのか、レンズとレンズの境目を人差し指で押し上げたのか。
その指はごつごつしている指かすらりとしている指か。鏡の前に立っていろいろ想像してしまった。
眼鏡を押し上げるという動作にこれからやってくる春の気配が感じられる。
指先の動きに春を感ずる作者の鋭い感性が光る一句。
迷ふのも楽しきバレンタインデー 優美子
バレンタインデー。チョコレート選び。デパ地下や有名店では女性客が列を作ってチョコレートを買い求める。
彩り、味、形、値段、どれにしようかあれこれ迷ってしまう。
これもかわいい、あれもステキ。これはあの人に渡そうか。
バレンタインデーの女性ならではの楽しみ方だ。
袋綴頁ざくざく開けて春 泉
雑誌などに付いている袋とじのページ。早く開けたい、気になるページ。
そんな袋とじをカッターできれいに切るのではなく、はさみか指でざくざく開けた。
袋とじの中の「春」を早く見たいという、作者のはやる気持ちが表れている。
早く「春」になってほしい。「春」を待ち望む期待感にあふれている。
句を口に出すと、「春」がぽんっと出てきたような面白さもある。
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