2016-05-24 Tue
小澤佳世子さんの句集『葱坊主』。北條真理さんが10句選び、鑑賞を書いてくださいましたので、ご紹介します。
春の昼指揮者空気を抱くごとく 佳世子
父は誉めず励ましくれぬ十二月 〃
冬の街ガラス重ねるやうに暮れ 〃
顔洗ふごとく紫陽花嗅ぎにけり 〃
寒星のちくりちくりと身籠りぬ 〃
日焼けしてクリームパンのやうな手よ 〃
大夕焼ビルの横顔真つ平ら 〃
更衣元気に白を汚しけり 〃
起きぬけの涙ぶらさげ麦茶飲む 〃
爽やかや寝癖疾走したるごと 〃
句集全体から伝わってきたのは、佳世子さんの物の捉え方の豊かさです。
クリームパン(手)とか、ビルの横顔とか、ガラス重ねるやうに暮れ、など
大げさでなく、独自の感性で表現していると思います。
中でも共感するところもあり好きな句は
「寒星のちくりちくりと身籠りぬ」です。
静かな状態だからこそ気付いた自分の身体の変化、その一瞬が伝わってきます。
その後のお子さんの様子を表した句はどれもいきいきと、
少しユーモアも含まれた句が多く、拝見していてとても楽しいです。
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2016-05-07 Sat
早くも7回目となる小澤佳世子さんの句集『葱坊主』を読む企画。今回は中川玲子さんが書いてくださいました。
アルバムの夏の家族の若かりき 佳世子
挙式待つ日々に色づく式部の実 〃
日向ぼこ睫毛そらせて眠りをり 〃
柳の芽うきうき揺るる銀座かな 〃
また母の子に産まれたし汀女の忌 〃
花石榴落ちたる枝に星残し 〃
しやぼん玉一つ一つが選ぶ風 〃
春の昼指揮者空気を抱くごとく 〃
流れきて石舐め上がる蝌蚪一つ 〃
春立ちぬルビーの内の燃えてゐし 〃
前半5句は自分自身の経験に重ねて共感できるという観点から、
後半5句は自分もこのような俳句をいつか作れたらという観点から
選ばせていただいた。
しやぼん玉一つ一つが選ぶ風 佳世子
しゃぼん玉についての句をいつか
作ってみたいと思っていた矢先に出会った一句。子ども(人間)の
視点ではなくしゃぼん玉(物)の視点で詠んでいるのがとても新鮮だ。
普通なら見過ごしてしまうことも鋭く観察し、表現できるのが
佳世子さんの俳句の魅力である。
2016-04-15 Fri
今回は志磨泉さんが、小澤佳世子さんの句集『葱坊主』から10句を選び、その中の1句に鑑賞を書いてくださいました。
わがままな強情な髪洗ひけり 佳世子
ぶらんこにつつぱつて人寄せつけず 〃
夫が子を笑はせてゐる秋刀魚焼く 〃
春の月我を褒めるは我ばかり 〃
眠らせるための散歩よ聖五月 〃
春炬燵から異次元へおもちや消ゆ 〃
汗噴きて叱つて母親また失格 〃
吾子うららなんでなんでと繰り返し 〃
起きぬけの涙ぶらさげ麦茶飲む 〃
夫あれば夫ゐぬ不安かいつむり 〃
春の月我を褒めるは我ばかり 佳世子
家事や子育ては、きちんとこなして当たり前で365日その日常の繰り返し。
子供が寝ついた夜にふと空を見上げると其処に春の月が。
輪郭が滲んでほのぼの灯っている春の月が自分をやさしく見守ってくれているように感じたのだろう。
この句は、誰も私を褒めてくれないという愚痴で終わる句ではない、季語が春の月だからだ。
誰も褒めてはくれないけれど自分なりに頑張っているなぁ(明日も頑張ろう)という心の潤いが生じたことが伝わってくる。
私自身、子供の手が離れて、子育てのあの日常そのものが自分自身を支えてくれていたことに気づいた。
妊娠・出産・子育てにおける日常のひとこまひとこまが詰まったこの句集は、作者やその家族にとってかけがえのない宝物だ。
子育て終盤に俳句と出会った私には羨ましい限りだ。
2016-03-20 Sun
小澤佳世子さんの句集『葱坊主』を読む第5弾。今回は、飯干ゆかりさんが10句選び、その中から1句に鑑賞を書いてくださいました。
万愚節祖母には見ゆる庭の人 佳世子
石畳目地濡れ残る風の盆 佳世子
この子には青が似合ふよいぬふぐり 佳世子
くせつ毛のもさもさ頭葱坊主 佳世子
夫と子を心の外にビール干す 佳世子
春炬燵から異次元へおもちや消ゆ 佳世子
爪嚙んで暮す三歳梅雨ごもり 佳世子
他所の子の素直が羨しマスクして 佳世子
夫あれば夫ゐぬ不安かいつむり 佳世子
子供茶碗割れてさよなら進級す 佳世子
子供茶碗割れてさよなら進級す 佳世子
子ども用のお茶碗が割れた、もしかしたら子どもが落として割ってしまったのかもしれません。
割れてしまったけれど、もうこのお茶碗も卒業。
新しく一回り大きなご飯茶碗を買ってあげなくては。
割れたという失敗も、さらりと前向きな気分にさせてくれます。
育児のよくある出来事も、このように一句にしなければ、思い出すこともないかもしれません。
2016-03-05 Sat
小澤佳世子さんの句集『葱坊主」を読む企画の第4弾。今回は吉田林檎さんが書いてくださいました
母の日の服胸にあて声若し 佳世子
春の昼指揮者空気を抱くごとく 〃
べつたら漬掴み上げられくたんとす 〃
紫陽花に窓ぶつつけてバス停まる 〃
夏の燈の匂ひたちたる八百屋かな 〃
雛の間におほほおほほと客笑ふ 〃
花嫁となる首筋の汗疹かな 〃
利かん気のそのままでゐよ赤ん坊 〃
勝ち負けもなくてご褒美運動会 〃
石一つ大事に握り青き踏む 〃
花嫁となる首筋の汗疹かな 佳世子
「花嫁となる首筋」ここまで読むと嫁入り前の女性の美しい首筋を思い浮かべるわけですが、突如「汗疹」が現れます。そうなると、それまで想像していた首筋とは全く別のものが浮かんでくるわけです。佳世子さんの句の魅力のひとつである、ちょっとした毒が効いた句。しかもその毒が自分に向けられています。
花嫁の美しい首筋を詠んだものならここまで惹かれることはなかったでしょう。実感にあふれています。