2023-12-03 Sun
2023年11月のパラソル・インターネット句会の特選句・入選句から5句、吉田哲二さんが鑑賞してくださいました。深秋や背ナ美しきピアニスト 実可子
○○の秋というのはたくさんありますが、ご存知のように芸術の秋、音楽の秋、というのもその一つです。夏の暑いときは、どうしても人間の感覚は鈍磨してしまいますよね。秋の深まりと共に、芸術への共感力は研ぎ澄まされていくような気がします。
掲句はピアノのソリストでしょう。美しいドレスを纏って鍵盤を一心に敲く姿は、聴衆を次第に恍惚の世界に誘います。そして、そのピアニストのドレスは、背中が大きく開いているのですね。ピンと張った背筋は、演奏の緊張の高まりと共に美しく輝いてくるようです。掲句はピアニストの背中を通じて、ピアノの旋律の美しさを感じさせる点が大変巧みです。肩甲骨が躍動する様子なども眼前するようです。
新蕎麦を啜る時折噛みしむる 千晴
「蕎麦は噛まない方が粋だ」と言われていますが、実は噛んだ方が蕎麦の香りや味わいをより楽しめるんですよね。筆者は蕎麦好きの一人なのですが、蕎麦の喉越しよりも味わいが好きなので、いつも遠慮なく噛み締めて食べています。
さて、掲句の作者は江戸前の蕎麦屋を訪れたのでしょうか。周りの客がみな通人に見えて、蕎麦を噛むのは躊躇われるところですが、作者は時折、そしてコッソリ奥歯で噛み締めているのです。作者だけがひそかに味わう新蕎麦のうまさ。掲句はもしかしたらただ単に新蕎麦の味わいを詠んだだけの句かもしれませんが、筆者の解釈であれば、やや俳諧味もでてきそうな感じです、如何?
秋晴やキリンきらきら食べこぼし 睡
景が眼前するようです。食べこぼす様子を「きらきら」としたところが印象的な措辞ですね。直接的には食べこぼしている餌が秋日の中で光っている様子を詠んだのでしょうが、なにやらキリンの逞しい体躯が燦燦と輝いているようにも感じられます。
また、「秋晴」で広漠な秋の天の様子をうまく捉えています。キリンの首は当然高いですが、秋天はもっと高いですよね。季語とキリンがよく呼応していると思います。
一方で、キリンを正面から見ると、その顎だけが動いている様子に妙なおかしみがあったりもします。いろいろな味わいのある句です。
力士らの振る舞ふちやんこ浦祭 百花
皆さんご存知のように、相撲部屋には有力なタニマチがあります。そんな義理のあるタニマチからお声がかかったのでしょうか。大きな力士たちが鍋や食材を背負ってぞろぞろときて、朝から働いています。
掲句は下五の「浦祭」が大変よく効いていると思います。秋の在祭の中でも、特に漁港や漁村なのですね。気持ちよく晴れた秋天と呼応するような広やかな海原が眼前します。浜に据えられたいくつもの大鍋と立ち上る湯気。とても健康的な景です。「食べ物の句は美味そうに」というまさに王道の句です。食べたい!
しづかなる看護学校秋うらら 香奈子
これが小学校であれば、喧しくて仕方のないところですが、そこは看護学校です。明日の医療を支えるべく、生徒たちは真剣に学業や実技に励んでいます。
「秋うらら」は漠としていてやや物足りなくも感じますが、看護学校の静かな景はよく描かれていると思います。抜けるような青空、麗らかな秋の日差し、周辺の樹木の色づきや一足早い落葉の様子などが、静かな看護学校の校舎の向うに見えてくるような気がします。
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2023-12-03 Sun
穏やかな小春日和の一方、少しずつ冬の気配も感じるこの頃です。11月の句会の報告です。
参加者は6名でした。
参加者の一句(含欠席投句)
降り立ちて手の届きさう紅葉山 真理子
偏頭痛来さうな予感うそ寒く 礼美
口出さぬことも覚えて落葉踏む 玲子
ボンネット開けて掻き出す落葉かな 淑子
小鳥来る小高き丘の古墳跡 佳世子
投函を忘れし手紙初時雨 千晴
ひとところ流れの淀み花八手 あき子
豪快に木の実を出してくれにけり 実可子
満月は子の頬ほどのふくよかさ 航平
頭痛薬さつぱり効かず夜の長き 優美子
次回は12月9日(土)13:30~エポック10 研修室1の予定です。
本年の納め句座、皆さまのご参加をお待ちしております。
2023-11-26 Sun
2023年11月パラソル・インターネット句会の結果です。今月の参加者は14名70句です。松枝真理子選
特選句
深秋や背ナ美しきピアニスト 実可子
新蕎麦を啜る時折噛みしむる 千晴
秋晴やキリンきらきら食べこぼし 睡
入選句
蘊蓄もまた馳走なり走り蕎麦 千晴
放ちたる魚影の消えて秋逝けり 哲二
秋明菊のみ揺らしけり朝の風 優美子
力士らの振る舞ふちやんこ浦祭 百花
投函す銀杏黄葉のポストより 栄子
爽やかや大学駅伝出走す 優美子
一枚の絵に会ふ旅へ月今宵 香奈子
いつかこんな旅をしてみたいです。特別感、充実感があります。(あき子)
しづかなる看護学校秋うらら 香奈子
次々に銀杏落ちてきたりけり 航平
号砲とともにスタート秋高し 優美子
扇子やら鈴やら落とし七五三 航平
三歳のお祝いでしょうか?小道具を落とすのもまた愛らしく、温かな眼差しで見守っている様子が伝わってきます。(栄子)
七五三の子どもの和装姿はこの上なく可愛いですが、あれこれ装飾品が付いているのですべて整った状態でシャッターを切るのは結構大変です。ほどけた帯締めの端を絡め直したり、傾いたはこせこや扇子を入れ直したり、手直しにあくせくするのはいつも母親です。(実可子)
12月のパラソルインターネット句会の締切は5日です。
皆さまのご参加、お待ちしております。
2023-10-30 Mon
秋晴れが気持ちの良い季節となりました。今月の句会の報告です。
6名が参加し、季語や語順について、またいかに省略をするかなどを学びました。
また、今回は午前開催ということで、句会終了後にランチ会を開催しました。
家族、育児、仕事、そしてもちろん俳句のことなど話は尽きず、あっという間に時間が過ぎました。お互いに新たな一面を発見するなど、楽しいひとときとなりました。
参加者の一句(含欠席投句)
外野またよそ見してをり猫じやらし 真理子
聞く耳を持たぬ夫なり芋焼酎 佳世子
秋澄むや書棚一段整理して 玲子
踏み入りて草の香に溺れてしまひ 淑子
金木犀香り娘の誕生日 礼美
靴紐をしかと結んで涼新た 千晴
とりどりにうんどうかいと貼られけり 航平
パパに髪結つてもらつてうんどうかい 実可子
爽やかや開店前のパン屋の香 あき子
次回は11月11日(土)13:30~エポック10 研修室2の予定です。
皆さまのご参加をお待ちしております。
2023-10-21 Sat
2023年10月のパラソル・インターネット句会の特選句・入選句から5句、青木あき子さんが鑑賞してくださいました。秋澄むや見知らぬ人と立ち話 百花
まったく知らない人と立ち話になった。秋の空気が澄みわたって気持ちが良く、お互いおおらかな気分だったのだろう。秋澄むという季語がとても効いている。
立待月もろとも夜気に満たさるる 千晴
立待月は十六夜の次の十七日の月。冷たい夜の涼しい空気、夏にはなかったすごしやすい空気が伝わってくる。夜気に包まれ月を待っている作者。立待月も自分も夜気に満たされ、しみじみと月を名残惜しむ気持ちがあろう。
露草や地球の色を滴らせ 優美子
互選で一番人気の句。露草のなんともいえない青色を地球の色と捉えた。一気にスケールが大きくなるところがこの句の魅力である。また、滴らせという表現で、再び小さな露草に焦点を絞っている。
背表紙のはみ出す書棚秋暑し 栄子
背表紙の揃っていない本棚。本でいっぱいになり、ぎゅうぎゅう詰めに押し込められている。もうすぐ整理しないと、とうんざりしている作者の気持ちも伝わってくる。
秋うらら小路の喫茶のぞく猫 香奈子
中が見えるガラスの扉、コーヒーの香が漂ってくる小さな喫茶店。その喫茶店をのぞいている猫に目が留まった。まるで人の言葉が分かるかのよう。中に行きたいのか人懐っこい猫である。明るい秋の小路ののんびりした雰囲気と、猫の姿に楽しい気持ちになる句である。